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竜を撫でる 09

竜を撫でる ©2023 星子意匠 / UTF.
あらすじ

 「天竜は人語を操り、竜を殺す。」近く成人を迎える王子のレイナードは、パレードで竜に乗る練習のため、地竜に乗る竜屋のディアナと北にある『天竜の滝』へと出かけた。その帰り、他国から突如襲撃を受け、飛竜に乗った正体不明の追手により、ディアナは瀕死の重傷を負ってしまう――。©2023 星子意匠 / UTF.

 

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他サイトでも重複掲載。(外部サイト)

https://shimonomori.art.blog/2023/05/31/std/

 

 

本編

09 レイナード

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ディアナ「ふひひっ。
     見ろ、レイナード!」

 

 ディアナの弾む声で顔を上げると、そこには見事な雪の家が出来ていた。

 

レイナード「こんなに早く、
      ひとりでできるものなのか」

 

 雪で作ったその家は、大人が何人も入れるほど大きなサイズだった。スピナーが入るぶん、大きく開いた入り口のため、人間用にはまだ未完成である。

 

ディアナ「スピナーと、よく入ったもんだ。
     天竜の私にかかれば、
     こんなもの昼ごはん前だ」

 

 そう言って腹の虫を盛大に鳴らす。

 

ディアナ「スピナーの肉は固くてあまり
     美味しくなかったが、鶏肉はよい。
     それに干し葡萄ぶどうのパンもあるぞ」

 

 ディアナの提案の通り、昼食を済ます。薪になる木の枝は集まらなかったが、スピナーの積んだ薪はもしものときのために、多めに用意されていた。

 

レイナード「ディアナ…明日、国に戻ろう」

 

ディアナ「うむ。一日で着くかわからんが。
     どうなったかは私も気になる」

 

 ディアナは、スピナーを雇っていた竜屋の仲間の竜たちと、世話になったあの主人を思い浮かべたが、生きている可能性は低い。

 

レイナード「復興ふっこうができればいいが、
      約束をまだ果たしてない」

 

ディアナ「約束ぅ? ふぁーあ…」

 

 鶏肉のもも肉で空腹を満たしたので、スピナーの毛皮を敷いてくつろぐディアナ。

 

 スピナーの大きな尻尾が雪の家の入り口を支配し、風を防ぐと午睡ごすいを誘い、大きなあくびをした。

 

レイナード「したぞ! 忘れたのか」

 

ディアナ「なら私が忘れるはずなかろうが!
     約束になってないに決まってる」

 

レイナード「俺を案内するって言っただろ」

 

ディアナ「それは成人したらの話で、
     金も払えんのなら成立もしない。
     条件が整ってないもんを
     約束とは言わん」

 

 寝そべったまま頬杖をついて、思いつきに笑う。

 

ディアナ「ははぁ、わかったぞ?
     私の死に際を勘違いして、
     勝手に盛り上がっとったな。
     俺をひとりにするなーって」

 

 彼女に言われてあの夜を思い出し、レイナードは恥ずかしさに赤面する。

 

ディアナ「ふひひっ。
     レイナードはそういうとこが、
     面白いから私は結構好きだぞ」

 

 その言葉に、レイナードは反射的に口を開いた。

 

レイナード「なら、結婚しよう!」

 

ディアナ「…はぁ? なぜそうなる」

 

レイナード「えっ…いや…いいだろ!」

 

 理由がすぐに思い浮かばず、逆ギレする。

 

ディアナ「愚息ぐそく愚息ぐそくは頭まで愚息ぐそくか!
     いや、いまじゃただの愚息ぐそくか!」

 

レイナード「愚息ぐそく愚息ぐそくって言うな!」

 

ディアナ「ならば証明してやる!」

 

レイナード「えっ? なにを…」

 

ディアナ「愚息ぐそくじゃないんだろ?」

 

 未だに下着姿のディアナが雪の家からい出る。彼女の不敵な笑みに、レイナードは恐れおののく。

 

レイナード「いや、待って、
      こころの準備が…」

 

ディアナ「愚息ぐそくが言い訳するんじゃない!」

 

 初対面のころの威勢の良さはどこへやら。レイナードはディアナの細腕からでも生じる怪力で両足を引っ張られ、雪の家に引きずり込まれた。

 

 

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竜を撫でる 10(2023/06/09 公開)

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