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竜を撫でる 06

竜を撫でる ©2023 星子意匠 / UTF.
あらすじ

 「天竜は人語を操り、竜を殺す。」近く成人を迎える王子のレイナードは、パレードで竜に乗る練習のため、地竜に乗る竜屋のディアナと北にある『天竜の滝』へと出かけた。その帰り、他国から突如襲撃を受け、飛竜に乗った正体不明の追手により、ディアナは瀕死の重傷を負ってしまう――。©2023 星子意匠 / UTF.

 

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他サイトでも重複掲載。(外部サイト)

https://shimonomori.art.blog/2023/05/31/std/

 

 

本編

06 出会いと別れ

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 日が傾き、夜の暗闇が森を覆う。それにも増して、月光がディアナを赤く照らした。

 

レイナード「なんでこんなことに…」

 

 天竜の滝に近づくとスピナーも、いくつか石弓いしゆみの矢を受けており、川沿いで弱々しい息を吐いて地に伏せた。

 

レイナード「スピナー! お前まで…!
      起きてくれ! ディアナ!」

 

 ディアナもスピナーの背の上で、うつろな目をしたままわずかに息を吐く。腹部にも矢を受けており、スピナーの白い毛を赤黒く染めた。

 

レイナード「おい! ディアナ!
      しっかりしてくれ!」

 

 瀕死ひんしのディアナの上半身を起こして、レイナードは無意味な行為を自覚する。

 

 くしゃくしゃになって泣き叫ぶレイナードの顔に、ディアナの血と毛だらけの手が触れる。毎日手綱たづなを握った硬い手で、朦朧もうろうとする意識の中でレイナードの頬に触れ、弱々しく撫でた。その手はすぐに力を失う。

 

レイナード「俺をひとりにするな!
      一緒に南に行くんだろ!」

 

 レイナードはディアナの亡骸なきがらを抱きしめた。力なく、血を失い、熱を失いつつある彼女を抱いて、これから先の運命さえも受け入れず、思考を停止させていた。

 

 そんなレイナードを叱責しっせきするかのように、ディアナは彼を突き飛ばした。

 

 レイナードはスピナーの背から回転して落ち、ディアナの血と、雪と泥に再びまみれた。

 

 ディアナは月光の中、スピナーの背の上で立ち上がり、首にささった弓を抜き取った。それから腹に刺さった弓も抜いた。

 

 ディアナはレイナードを見下ろして、また白い息を吐く。

 

レイナード「ディアナ?」

 

ディアナ「許可なく私に抱きつくな!」

 

 ディアナもスピナーの背を身軽に飛び降り、大きな顔に向かいヒゲを、頬を力強く撫でた。

 

ディアナ「よくやってくれた。
     私の同胞はらから

 

 スピナーは起きない。何度撫でても、呼びかけても、鳴くことも、匂いのする息さえも吐かない。

 

 ディアナは腰のナイフを抜いて、力を込めて首を切る。

 

レイナード「なにを…?」

 

ディアナ「とむらいだ。静かにしろ」

 

 スピナーの血で雪が溶け、地面が赤く染まる。

 

 スピナーの身体にナイフを突き立て、厚い皮を切る。ディアナは地竜の巨体など物ともせず、スピナーを横倒しにする。

 

 それからさらに腹を割ると、大量の内臓を抜き出し、いくつかの部位を見定め、ディアナは生のままかじった。

 

ディアナ「お前も食え。これはまだ食える」

 

 地竜の大きな肝臓かんぞう。レイナードは目の前で起きていることが理解できないまま、弱々しくかじりついた。まだほのかに温かいが、血の、鉄の味しかしなかった。

 

ディアナ「おい、レイナード。
     凍死とうししたくないだろ。
     こっちへ来い」

 

 信じがたいことが起きている。目を皿にして、ディアナと共に、亡骸なきがらとなった地竜の腹の中の、抜かれた内臓の隙間に入った。

 

 寒さが和らぎ、肉に残った熱が冷え切った手足を守ってくれる。

 

ディアナ「ふっ…これがスピナーの最期だ」

 

 暗闇の中でディアナが言った。泣いているようにも、笑っているようにも聞こえる。

 

レイナード「ディアナ。
      きみは…大丈夫なのか?」

 

 震える声でレイナードは言った。

 

ディアナ「当然だ。
     殺されても死なん。
     なんせ私はお前たちの言う
     天竜だからな」

 

 

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竜を撫でる 07(2023/06/06 公開)

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