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竜を撫でる 03

竜を撫でる ©2023 星子意匠 / UTF.
あらすじ

 「天竜は人語を操り、竜を殺す。」近く成人を迎える王子のレイナードは、パレードで竜に乗る練習のため、地竜に乗る竜屋のディアナと北にある『天竜の滝』へと出かけた。その帰り、他国から突如襲撃を受け、飛竜に乗った正体不明の追手により、ディアナは瀕死の重傷を負ってしまう――。©2023 星子意匠 / UTF.

 

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他サイトでも重複掲載。(外部サイト)

https://shimonomori.art.blog/2023/05/31/std/

 

 

本編

03 天竜

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 レイナードは恥辱ちじょく排尿はいにょうを済ませ、汚れた顔を袖で拭いてから、再び地竜の背に乗った。

 

 ディアナは気分良く鼻歌を歌う。レイナードはもう何も言わず、黙って前方を見つめる。

 

 地竜はゆっくりと歩く。背に乗れば、一歩ごとに大きく揺れ動くが、下を見ていた時よりはマシだった。しかし、緊張感で吐き気は耐えない。

 

ディアナ「見ろ、もうじき天竜の滝だ」

 

 川沿いに作られた竜の道。その先には切り立つ崖が遠くに立ちはだかる。成人のパレードを前にしたレイナードは、この地に初めて踏み込む。荘厳な自然の景色に息を呑む。

 

レイナード「…天竜は、本当にいるのか?」

 

ディアナ「なに? まだビビってるの?」

 

レイナード「ビビってないと言ってるだろ」

 

ディアナ「こんなとこにいるわけないって」

 

レイナード「俺をたぶらかすな。
      何度かここに来てるはずだ」

 

ディアナ「ひとの言葉を操り、
     竜を殺す力を持つ。
     そんな伝承なんて作り話だ。
     それじゃああなたたちの国なんて、
     あっと言う間に滅んでる。
     竜をまつる民たちが、
     いましめに作ったんだろ?
     竜に悪さしちゃダメだ、
     って具合に」

 

 人も踏み込めない巨大な崖から、流れ落ちる天竜の滝。瀑布ばくふが作る一本の巨大な線が、生命のようにも見え、人々は畏敬いけいの念でそう呼んだに過ぎない。

 

レイナード「不信心者め」

 

ディアナ「あのな。私はここらで
     生まれ育ったからわかるんだよ」

 

レイナード「こんなところで?」

 

 植物さえもてつくような環境で、にわかに信じがたいことを言った。

 

 真冬であれば、このあたりで一夜を明かすこともままならない厳しい環境。

 

ディアナ「それじゃあ
     竜に育てられたなんて
     言ったところで信じないだろ」

 

レイナード「こいつに?」

 

ディアナ「スピナーは私のきょうだい。
     ほかにも居たけど覚えてない」

 

レイナード「信じられるか…」

 

ディアナ「言っただろ。
     信じなくていい。
     竜と民にかしずくのが
     あんたら王族の役目だ」

 

レイナード「くっ…逆じゃないか」

 

ディアナ「あんたは成人し、これから
     数十万の民と竜たちの
     命を預かるんだ。
     天竜なんてもんは
     気休めに過ぎない。
     まあ、自分の治める土地を
     見限るんであれば別だけどな」

 

レイナード「好き勝手言ってくれる…」

 

 天竜はただの巨大な滝でしかない。見上げた滝にレイナードは白い息を吐いたが、伝承どおりの竜など存在せず、肩透かしを食う。

 

ディアナ「ふひひっ。
     おかげで気休めにはなっただろ」

 

レイナード「自分の小ささが身にしみる」

 

ディアナ「愚息ぐそくの話か?」

 

レイナード「違う! 断じて違う!」

 

 ディアナはレイナードを背から降ろし、竜屋を出る前に積んだ荷物を降ろす。

 

ディアナ「さぁ、ごはん食べたら
     さっさと帰るぞ。
     レイナード」

 

 

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竜を撫でる 04(2023/06/03 公開)

https://shimonomori.hatenablog.com/entry/std04/