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双子だった私

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双子だった私 ©2022 UTF.

あらすじ

 

双子として生まれてくる予定だった私は

双子になれる方法を見つけました

 

バラバラになっていた家族が、

機械人形というもうひとりの私を迎える。

 

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他サイトでも重複掲載。

https://shimonomori.art.blog/2022/03/19/sow/

 

文字数:約2,000字(目安3~5分)

 

※読了目安は気にせず、まったりお読みください。

 

※本作は横書き基準です。
 1行23文字程度で改行しています。

 

都合上、句読点を省略しています。

 

初出:2022/03/19

 

この作品にはセンシティブな表現が含まれます。

予めご了承の上、お読みください。

 

 

双子だった私

――――――――――――――――――――

 

私は双子だった。

 

双子の姉妹として
私はこの世に生を受ける予定でした

 

片方が産まれる前に死んでしまい
私だけがこうして16年間生きてきました

 

死産を経験した母はいまも心を病んでいます

 

16歳の私は双子になることを
自分の意思で決めました

 

そこからが大変でした

 

――――――――――――――――――――

 

機械人形が一般的になった時代

 

人間に寄り添うかれらのおかげで、
日々の生活はとても豊かになりました

 

雇用・介護・インフラ問題などが解決し、
人間は労働の義務から解放されたのです

 

人間はより自由に生きることができ、
人生を謳歌することができました

 

――――――――――――――――――――

 

というのはあくまで社会の話で、
個人には色々な悩みがつきません

 

恋愛や進路や趣味だったり、
身体の成長や家族関係だったり――

 

スポーツひとつとっても、
上手下手が存在するので
人生とはままなりません

 

そして老いや病気も、
機械人形がすべて解決してくれる
わけではありませんでした

 

――――――――――――――――――――

 

私中心の狭い社会だと、
学校と家族くらいしかありません

 

父と母と、それから産まれなかった
姉か妹が存在したはずでした

 

もし生まれていれば、
母は心を病むことはなかったし
父はもっと家族と向き合えたかもしれない

 

バラバラになってしまった家族を
修復する方法が、この機械人形でした

 

――――――――――――――――――――

 

人間社会に溶け込んで
あらゆる仕事をこなす機械の存在

 

機械の身体であれば交換は容易です
機械なので死ぬことだってありません

 

危険な仕事も任せられます
嫌われる仕事だってこなします

 

人間のマネをし、人間の活動を補助する

 

もう機械人形なくして
私たちの生活は成り立ちません

 

――――――――――――――――――――

 

機械人形はひとつの特徴として
生きた人間を複写することができます

 

あくまでコピーであり
外見や記憶、知識、
それから人格を機械の身体に
転写させたものにすぎません

 

医療用に使われる
この介助型の機械人形で
私は私の複写を希望しました

 

しかし未成年の複写は
法的に認められてはいません

 

――――――――――――――――――――

 

私は鬱屈とした現状を嘆き、
家族と学校を巻き添えにして
官庁、マスメディア各方面に訴え、
裁判所で争いました

 

あと2年待てば成人し、介護の名目で
許可も降りやすかったのかもしれません

 

しかし私の活動は功を奏し、
めでたく国から認可を受けました

 

こうして私は私の複写をつくりました

 

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まず全身の頭頂から足裏、
毛穴にいたるまで精細にスキャンします

 

記憶と人格を写すために
穴という穴から管を通し、
細長い注射針を使って
いくつか細胞も採取されました

 

こんなに大変だとは思いませんでしたが、
私は麻酔で眠っているだけでした

 

もうひとりの私はすぐにできました

 

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全身麻酔から起きて、
身体が馴染むまで苦労しました。

 

お医者さんが言うには
術後せん妄だそうで、
夢と現実が区別できなくなる
へんな症状がでました。

 

そのおかげか私を見た父の反応は、
あまり良いものではありません。

 

母は不気味なものを見るかのように
いつもの不機嫌な顔を私に向けました。

 

――――――――――――――――――――

 

鏡であれば、前後が異なるただの鏡像

 

でも目の前に立つのは
もうひとりの私

 

双子の私。

 

私は私を見て、笑い。
私も私を見て、笑う。

 

一緒に勉強して、
同じところを間違えて。

 

一緒にご飯を食べて、
同じおかずを取り合って。

 

一緒にお風呂に入り、
見えないところを見比べました。

 

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未成年者の機械人形との共同生活

 

マスメディアや科学者までも興味を示し
双子の私たちは毎日ひっぱりだこ

 

生活をのぞき見ようと
家の中に取材用のカメラまで設置されました

 

学校にいればウワサも絶えない有名人
私たちはそのくらい注目の的です

 

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母が自殺した。

 

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葬儀の日、大勢の参列者に紛れ
マスメディアが集まった。

 

母の急逝に、
介護役であるべき
私の責任が問われた。

 

父はなにも言わず
否定さえもなく、
沈黙した。

 

母も自殺の理由を言ってくれない。
ただ、いつもの不機嫌な顔で眠っていた。

 

――ねぇ、これって私が悪いの?

 

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葬式が終わり、
しばらくしてまた学校に通う。

 

私はまるで容疑者扱い。

 

クラスメイトからは拒絶され、
マスメディアには取り囲まれる。

 

ありもしないウワサ話に報道、
ネットでは私に対する誹謗中傷。

 

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私はなにも悪いことしてないのに、
母は自分勝手に死んだ。

 

私は家族を思って頑張ってきたのに、
父は私を守ってはくれない。

 

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私は私を責め
私は私を慰めた

 

私はなにも悪くない
可哀想な私

 

私のせいでこうなった
みんなが言うように私が悪いの?

 

どうしてだれも私を褒めてくれないの?
家族のために頑張ったのに

 

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私の顔で私が言う。
私のせいで、私は悪くないのに

 

私なんていなければいいのに…

 

私たちの意見は一致した。

 

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私は双子だった。

 

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『双子だった私』c2022 UTF.

 

この作品はフィクションです。

 

実在の人物・団体や
企業などとは関係ありません。

 

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